■安倍首相の意義深い「戦略外交」

ロシアと中東で安全保障対話を立ち上げ

安倍首相はロシアと中東訪問を続けている。その中で注目されるのは、いずれの国でも両国の外交・安保両省幹部による安全保障対話の新設を取り決めたことだ。従来の日本外交は戦略的な視点に欠落し“友好外交”に終始していたが、そこから転換した。ロシアも中東も対中戦略上、欠かせない地政的意味合いを持つ。両地域と従来なかった安全保障対話を進めていくこと自体が中国への抑止力として機能するのである。安倍内閣が外交の機軸としているのは「価値観外交」で、自由と民主主義、基本的人権市場経済など「共通の価値観」を外交の座標軸に据えている。これは戦略外交とも呼べる。


戦後初めて戦略外交を試みたのは、1977年8月の「福田ドクトリン」である。福田ドクトリンとは東南アジア諸国を歴訪した福田赳夫首相が打ち出したものだ。それまでの東南アジア外交は田中(角栄)外交に象徴される経済外交のみだったが、福田ドクトリンはそれを一変させ、戦略的関与を行った。そのキーポイントは71年のニクソン・ショックキッシンジャー秘密外交によるニクソン訪中発表)によってアジア情勢が変化し、75年のベトナム戦争終結で米軍が逃げるように撤退、インドシナ3国が共産化し、さらに76年に登場したカーター米政権がアジア関与策を後退させた。その空白をソ連と中国が虎視眈々と狙い、とりわけ華僑の多いASEAN諸国が中国の脅威にさらされた。これに対して日本が米国に替わって(軍事的プレゼンスは依然として米軍によるが)、政治的に関与して支援するとしたのが福田ドクトリンであった。従来の経済一辺倒から踏み出し、ASEAN東南アジア諸国連合)諸国の共産化阻止を明確に打ち出したのである。それで戦略外交と呼ばれ、ASEAN諸国から歓迎された。

こうした戦略外交、価値観外交安倍内閣は蘇らせ、日本政治の新機軸に据えようとしている。これは歓迎されてよい。アジアから中東、アフリカ、中南米へと親日の網を拡大し、ロシアまで巻き込んで対中包囲網を世界的に広げる。その延長線上にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)があることを忘れてはならない。