伊勢志摩サミットは日本に何を残したか

☆使命を果たした安倍首相に感謝
 5 月26,27 日に開催されたG7 伊勢志摩サミットは無事成功裡に閉幕し、先ず何より安倍首相に本当にご苦労様でしたとねぎらいの言葉を贈りたい。最近は、G7 の存在意義は低下していると喧伝されているが、それでも世界情勢の動向のカギを握るG7 の首脳が一堂に会することの重要性は無視することはできない。
 G7 は、1975 年フランス大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタンの提案により、オイルショック後の世界経済の混乱を収拾するためフランスのランブイエに世界経済を主導する5 か国(米、英、仏、独、日)の首脳が招集された。その後G5 に入れなかったイタリアが不満を表明、その要求を受け入れG6 として出発した。しかし、あまりにもヨーロッパに偏り過ぎるという米国の要請で北米大陸からカナダを入れ、G7 となった。
 この様に先進国クラブに入れてもらえない国々から様々な形の批判も寄せられている。その代表は中国である。今や、米国に次ぐ世界第二の経済大国を自認する中国が、自分達を除外して世界経済の動向を決定することは容認できないとばかりに物言いをつのっている。
 中国外務省の華春瑩報道官は、「今回日本はG7の議長国の立場を利用して、南シナ海問題を騒ぎ立て、緊張した雰囲気を作り出した。地域の安定に役立たないことだ。」と日本を名指しで批判した。
又、国営新華社通信は、G7 を時代遅れの金持ちクラブと批判した。しかし、中国が誤解しているG7
は、経済大国だけの集まりではないことだ。重要なのは、自由と民主主義と人権の価値を共有する主要国の会議であることを理解していない。もし、中国が参加すればG7 は瓦解してしまうことは火を見るより明らかである。
 東アジアにはもう一ヶ国自分もG7 に入るべきだと自負している国がある。それは、韓国だ。韓国は世界10 位の経済大国であり、日本がアジアを代表してG7 のメンバー国であることに強烈に嫉妬を感じライバル意識をむき出しにしている。
それは、オバマ大統領が広島訪問を決定した時の韓国の新聞論調を見れば良く分かる。オバマ大統領が広島の被爆者碑を訪問するのなら、そこから150 mの所にある韓国人慰霊碑も訪れるべきだという主張である。しかし、良く考えてみればその当時朝鮮人は、日本国民であったのだからオバマ大統領が、自分が広島を訪問するのは原爆の被害に遭った全ての死者を慰霊するためであると表明している中には、当然犠牲になった韓国人も含まれている。それなのに、わざわざ韓国慰霊碑を訪問せよというのは、筋が通らない話である。米大統領が所感表明の中で犠牲になった10 万人の日本人、数千名の韓国人そして、数十名の米国人と述べたのも恐らく韓国のロビイストによるホワイトハウスへの強烈な工作によるものと思われる。
第一オバマ大統領は、G7 のため日本を訪問していたのであり、韓国のために来たのではない。いろんな機会を捉えて韓国に有利なことを引き出そうとする根性が見え透いている。こういう国は、G7に入る資格がない。

☆ G7 のサミットの効果はあったか

 今回のサミットは、日本が主催する4 回目のG7である。先回の洞爺湖サミットは準備した安倍首相が突然辞任したため、福田康雄氏が議長役を務めた。今回安倍首相は、晴れてG7 の議長国として重責を無事果たすことが出来た。今回のサミットの特徴は、その大掛かりな警備であろう。警備の為動員された警察官は全国で2 万数千人、軍隊で言えば二個師団以上である。警備にかかった経費は洞爺湖サミットを上回る340 億円と史上最高である。勿論、G7 の首脳にテロや万一の事があってはならないので主催国としては当然の事であろうが、警備当局としては、サミットの機会を利用し予算の獲得と組織の最大限の拡大を計る絶好の機会となったことは間違いあるまい。
 取材の為に集まった内外のメディアは、実に6000 名を超えたと言うからサミットが全世界に発する発信力は絶大である。又、安倍首相としては、これを機会に日本の伝統や文化を世界に発信する絶好の機会を提供した。その点では、今回の伊勢志摩サミットの出発点として日本人の原点ともいうべき伊勢神宮を選んだと言う事もとても良かったと思う。勿論G7 のリーダーたちは、伊勢神宮を‘ 参拝’ はしなかったが‘ 参観’ した。彼等は、日本以外は皆キリスト教国から来ているので、
彼等の嫌う偶像崇拝に当たる拝礼はしなかったが、それでも、日本人の魂の本郷である伊勢神宮を‘ 参
観’ したことは大きな意義があったと思う。この点から見て、安倍首相の行ったことは、日本にとってすごいことだと評価したい。

 会議のテーマは、世界経済、テロ、安保問題など様々な議題が討議されたが、それは既に新聞等で発表されているので、ここでは詳細は触れない。今回のサミットで、日本側が非常に力を入れたのはいわゆる‘ おもてなし’ であった。特に料理には最大の努力を投じた。特に、‘ おもてなし’ のため
に政府は各省庁から300 名のスタッフを集め詳細なことに至るまで煮詰めて遺漏なきを期したと言う事だ。伊勢志摩には、松阪牛を始め、特産の伊勢海老、アワビ等特上のものが準備され、首脳たちの称賛を得たことは間違いなかろう。又、サミット参加者のみならず、内外から集った6000 名のメディアの人達にも滞在中フリーの食事を提供されたということである。会議がどんなに上手く行っても食事がまずければ、会議は失敗に終わってしまう。その点から見ても今回の料理は満点の評価を得られたと思われる。このような観点から評価するとすれば、今回のサミットは、ほぼ満点に近いと言えるのではなかろうか。又これも「地球儀を俯瞰する外交」を唱える安倍政権の大きな勝利と言えないだろうか。

オバマ大統領の広島訪問 
 今回のサミットで特筆すべきことは、オバマ大統領の広島訪問を挙げる事ができる。勿論これは、
サミットの中に含まれるイベントではないが、それを越えて歴史的、世界史的出来事であったと評価することができる。筆者は、オバマ大統領の広島訪問をテレビで詳細もらさず見ていたが、非常に感動を憶えた。大統領一行の車列が、広島の平和公園に向かう様子は、歴史的一大事件を見ているような感慨を覚えた。
 平和公園に到着したオバマ大統領を安倍首相が出迎えすぐ献花に向かうのかと思ったら、首相の案内で原爆資料館に入った。館内の様子は、米国の国民の感情を傷つけないようメディアは遮断された。すると10 分くらいで大統領と首相は出て来た。恐らく時間も無かったのだろう。それから大統領と首相は歩いて被爆者慰霊碑へ進んだ。そこには被爆者の代表者が30 名程度招待されていた。まず、オバマ大統領が献花し続いて安倍首相も献花した。思いなしかオバマ大統領は硬い表情をしていた。
 献花の後、大統領は17 分にわたる所感を述べた。日本に対する謝罪には言及しなかった。大統領は、
プラハで宣言した核なき世界の実現の理想について語り、被爆者への慰霊の言葉を述べそれよりも未来についてより多く語った。筆者には、非常に抽象的に響いたが大統領の置かれている立場では、最大限の気持ちを込めて語ったものと理解した。
大統領は、献花の後しばし黙想したが、頭は下げなかった。恐らく胸中では被爆者に対する慰霊を行っていたものと思われる。
 大統領に続いて首相がはっきりとした言葉で二度とこのような悲惨なことを繰り返してはいけな
いと述べた。その後大統領は被爆者の代表と握手を交わし、言葉を交わして、軽く抱擁した。恐らくこれが大統領としての最大の慰霊の行為であったのだろう。被爆代表者達も泣いている人が多かった。その後安倍首相が大統領を誘って原爆ドームを指さして説明を行っていた。そこへ大統領専用
車が到着し、首相に見送られて大統領は専用機に搭乗すべくその場を去った。たったこれだけの訪
問であったが、これは世界を変えるものであろう。
 こうして日米はまた一段と深い絆で結ばれることになった。オバマ大統領が謝罪するかしないか
が問題ではない。原爆投下国の大統領が、唯一の被爆国の原点である広島の平和公園を訪問して、
献花し、被爆者代表と握手し抱擁したことは、日米の大きなわだかまりを溶かし固い絆で結ばれた
証であろう。これこそが日米のみならず、世界万民が注目せざるを得ない歴史的大事件だったので
あり、今回のサミットが残した最大の宝物ではないだろうか。