■第23回参議院議員選挙の分析

自民党が圧勝、安倍政権は長期政権へ
改憲要件の参院3分の2超えに至らず

第23回参院選挙(定数242=改選121)は2013年7月21日に投開票が行われ、自民党が圧勝し、6年ぶりに衆参の「ねじれ」を解消した。改憲を公約に掲げる自民党と日本維新会、みんなの党などの参院議席数は143議席(59%)となったが、3分の2の確保には至らなかった。加憲の与党・公明党(20議席)を加えると163議席となるが、リベラルな公明党ではなく、民主党内の改憲勢力を取り込んでいく方が望ましい。
 今回の参院選での各党獲得議席と、参院全体での議席(カッコ内)は以下の通りとなる。


自民党65(115)
公明党11(20)
民主党17(59)
・みんな8(18)
共産党8(11)
・維新 8(9)
社民党1(3)
・生活 0(2)
・改革 −(1)
諸派 1(1)
・無所属2(3)




今回の選挙のポイントを6つ挙げると以下のようになる。


【ポイント1】衆参の「ねじれ」を解消した
衆院は昨年12月の総選挙で自民党が圧勝し、公明党と合わせると与党で3分の2を占め、参院で法案が否決されても衆院で再可決が可能となる「衆院優位」体制を築いた。それでも国会の会期が足かせとなり、参院が国政停滞を招く元凶となってきた。こうした「ねじれ」の悪弊を断ち切るかどうかが参院選の最大の焦点だった。与党が63議席以上を獲得すれば過半数(122議席)に達し、「ねじれ」が解消できるが、選挙結果は63をはるかに上回り自民党65、公明党11の計76議席を獲得、安定多数となる135議席を占め、6年ぶりに「ねじれ」を解消した。安定した国会運営が可能になる「安定多数」(129議席)を得たことは意義深い。

【ポイント2】自民単独過半数に7議席及ばず
自民党衆院のように参院でも単独過半数を占められるかも焦点だった。過半数を得れば、リベラル色が強く改憲に後ろ向きの公明党に依存しなくても政局運営が可能になり、今後3年間の政治を大きく左右するからである。自民党だけで単独過半数を超えるには72議席が必要だったが、それには7議席及ばなかった。しかし、維新の会(9議席)やみんなの党(18議席)の協力があれば、公明党抜きで過半数超えが可能となった。このことによって公明党の影響力は相対的に落ちたと言える。

【ポイント3】改憲政党の参院3分の2超えは実現しなかった
憲法改正を発議するには衆参両院で、いずれも総議員の3分の2以上の賛成が必要となるが、衆議院(定数480)は昨年12月の総選挙で改憲3党が総計366議席を獲得し、衆院改憲の手続きに入ることができるライン(320議席)を大きく突破した。これに対して参議院では、改憲派改憲3党+新党改革)の非改選議席は62で、3分の2(162議席)以上を得るには、改憲4党で合わせて100議席が必要だった。今回の参院選では、自民党は65議席、維新の会は8議席みんなの党は8議席を獲得、非改選を含めた参院全体では自民党115、維新の会9、みんなの党18、改革1の計143議席(59%)で、改憲発議に必要な3分の2(161議席)に達することができなかった。ただし「加憲」を掲げる与党・公明党(20議席)が改憲派に加われば、163議席となり発議要件をクリアできる。

【ポイント4】野党の改憲勢力結集が課題に
毎日新聞参院選当選者アンケートによると、憲法改正に「賛成」と回答した当選者は74%を占め、「反対」の19%を大きく上回った(7月23日付)。非改選の参院議員にも同様のアンケートを行ったところ、改憲に「賛成」は75%で、「反対」は18%にすぎなかった。全参院議員のうち、公明党改憲賛成は11人(新人7人、非改選4人)、民主党は11人(新人2人、非改選9人)、無所属2人(新人1人、非改選1人)の計24人で、これを改憲派に加えると167議席となり、改憲ラインを突破する。野党第1党の民主党は公約で「補うべき点、改めるべき点への議論を深め、未来志向の憲法を構想する」とし、党内には少なからず改憲派が存在する。安倍首相は「維新の会、みんなの党だけでなく、民主党の中にも、条文によっては賛成する人はいる」と述べ、民主党内の改憲派結集に意欲を示している。改憲論議は野党の再編論議に波及している。維新の会の松野頼久・国会議員団幹事長は参院選開票の翌7月22日に民主党細野豪志幹事長、みんなの党江田憲司幹事長と会い、「96条勉強会を作ろう」と呼び掛けた。賛否両論が存在する民主党の分裂を促し再編の主導権を握るのが狙いとされる。野党再編のキーワードとなるのが改憲であることに注目しておきたい。

【ポイント5】衆参の憲法審査会で改憲準備を進める
安倍首相は参院選後の取り組みについて「私たちとしてはまず96条と話してきた。(衆参両院の)3分の2を形成できるか、さらに議論を進めていきたい」(7月21日夜、NHKインタビュー)としている。96条は憲法改正要件を規定した条項だが、改正は「第1の関門」の発議要件を2分の1に緩和しようというところにある。96条改正を手始めに、改憲の中身に踏み込んで論議を高め、その過程で改憲派の結集を図る野党再編を促す。それが首相周辺の考えである。憲法審査会では、憲法改正手続法(国民投票法)の詰めを行っていく必要がある。同法は18歳以上に投票権を与え、国会発議後60〜180日間ほどの期間を経た後に国民投票を行うなどとしているが、細部は詰められていない。公務員の政治的行為を制限した国家公務員法などの見直しもうたっているが、公務員の政治活動を禁止し、選挙違反の規定などもはっきりさせねばならい。朝日新聞は「参院選後の政権ロードマップ」を示し(7月22日付夕刊)、その中で今秋の臨時国会で「日本版NSC法成立 集団的自衛権の行使容認? 国民投票法改正?」とし、2014年4月以降の通常国会で「衆参3分の2勢力を確保 憲法改正を発議 国民投票実施 憲法改正」との政治日程を予測している(ただし「来年以降?」との担保をつけている)。これが護憲派の恐れる改憲ロードマップと見てよい。

【ポイント6】2016年までの3年間が勝負
2020年までの政治スケジュールをみると、15年に統一地方選挙(4月)と自民党の総裁選(9月)があり、安倍総裁が再選されれば、安倍政権下で16年に参院選(7月)と衆院選(任期は同年12月)が行われ、これはダブル選挙になる可能性がある。16年の参院選(あるいはダブル選=7月)を勝利すれば、安倍総裁が再選され、その場合、任期は18年9月までとなり、長期政権が実現する。2期6年を考えれば、安倍首相は16年の国政選挙で憲法改正を視野に入れざるを得ない。その3年後の19年には統一地方選参院選(これも衆院選とのダブル選挙か)の一大政治決戦を迎えるが、ここまで改憲を伸ばせば後継総理の時代となり、改憲の好機を逸する可能性も出てくる。


今後の3年間が改憲の勝負どころとなる。