北朝鮮ミサイル発射予告への対応

北朝鮮の「衛星打ち上げ」と称するミサイル発射に対応するため、万全の防衛態勢を構築する必要がある。ミサイル防衛(MD)システムの拡充、集団的自衛権行使の決断、専守防衛を放棄し敵基地攻撃能力を保持する積極的防衛戦略に転換すべきだ


【ポイント】
当研究所は「改国救世」の7つの方針の中で「強固な安全保障体制の構築」を目指し、国力の基本となる「軍事力」において「専守防衛の方針を破棄し、積極的防衛を可能にし、近隣諸国からの脅威を抑止できる高度な国防力を構築する」と主張しています。北朝鮮のミサイル発射への対応はまさにその試金石となるものです。北朝鮮の予告によれば、4月12日から16日の間に地球観測衛星光明星3号」を打ち上げるといいます。しかし、「衛星」とは名ばかりで、実際はミサイル発射そのものです。2月末の米朝合意では、「長距離弾道ミサイル発射の実験一時停止」を約束したばかりですが、詭弁を弄して早々と反古にしました。金日成生誕100年(今年4月15日)への「国威発揚」と北朝鮮の軍事脅威を見せ付け、世界を恫喝するためにミサイル発射を行おうというのです。わが国はこれを許さず、北ミサイルへの万全な防備体制を構築しなければなりません。


【視点】
●国際社会を愚弄する北朝鮮の欺瞞的なミサイル発射
 

北朝鮮は3月16日、地球観測衛星光明星3号」を運搬ロケット「銀河3号」に載せて平安北道鉄山郡の西海衛星発射場から南方に向けて打ち上げると発表しました。それによると、1段目のブースター(推進装置)は韓国西部の東シナ海に落下し、本体は石垣島宮古島など先島諸島上空を飛び、2段目のブースターはフィリピンの東部海上に落下するとしています。
 しかしながら、北朝鮮の予告どおり、打ち上げるのが平和的な「衛星」と真に受ける人は世界には誰もいないでしょう。朝鮮中央通信が「今や世界は先軍朝鮮(軍事優先の北朝鮮)の尊厳と、不敗の国力を改めて見ることになる」(3月16日)と自ら叫んでいるように、軍事のための発射なのです。
先例があります。09年4月に弾道ミサイルテポドン2号」改良型を打ち上げた際には運搬ロケット「銀河2号」によって人工衛星光明星2号」を軌道に乗せたと言い募りました。実際は、1段目ブースターは秋田県沖の日本海に落下し、本体は日本の東北上空を越え、2段目は「衛星」と称する先端部を含めて太平洋上に落ちました。
忘れてならないのは、このミサイル発射に引き続き北朝鮮は09年5月に核実験を強行したことです。今回もミサイル発射直後に核実験を行い、「軍事力」を誇示し、恫喝によって食糧・経済支援を取り付けようとするでしょう。そうした策略を見抜き、動じてはなりません。ミサイルは核兵器の運搬手段ですから、これらを一体的に捉えて対応策を確立しておかねばなりません。
北朝鮮の「衛星」打ち上げは国連安保理決議(1874号=09年6月)に違反するものです。国連安保理決議は「いかなる核実験又は弾道ミサイル技術を使用した発射もこれ以上実施しないことを要求する」としています。今回も弾道ミサイル技術を使用した発射であるのは自明です。したがって国際社会は北朝鮮のミサイル発射を止めさせるよう、働きかけを行っているのは当然でしょう。しかし、国連安保理決議は拘束力を持っていません。また国際世論を微塵も振り返らないのが北朝鮮です。ですから、こうした軍事脅威に対しては抑止力という概念を明確にもって対応すべきです。


北朝鮮の核・ミサイル開発の実態を見据えよ

北朝鮮先軍政治は何も今、始まったものではありません。北朝鮮金日成時代の1962年のキューバ危機でソ連が米国に屈したことに危機感を抱き、自国体制を守るために「4大軍事路線」(62年)を敷き、それ以来、一貫して「軍事強盛大国」を目指してきました。ソ連崩壊後の90年代からは毛沢東を倣って核ミサイル開発に拍車を掛けたのです。
ちなみに、毛沢東は米ソの核保有国に対抗できるのは核武装しかないとし、「核クラブ」入りすることで米ソから共産政権を守り、同時に将来、米ソに伍することができると考えました。それで大躍進の失敗(1958年)や3年連続の凶作によって2000万人が餓死している最中に、人民を助けずに核開発を進め、64年10月に初の核実験に成功し、次いで65年5月には航空機から投下する核実験を行い、こうした核兵器開発と並行してミサイル開発にも取り組み、66年10月には弾道弾を完成させミサイル発射による実験を成功させるに至ったのです。
この同じ発想で金日成が核開発を目指し、これを金正日が継承し、2012年を目指して「先軍政治」の軍事路線をひた走ってきたのです。北朝鮮の正規軍は人民の5%に当たる110万人以上、民兵を加えると実に人民の30%以上が軍人であるという世界稀な戦時体制(ナチスや戦時下の日本も及ばない)を敷いています。韓国を射程に入れるスカッドB(火星5号)、スカッドCミサイル(火星6号、いずれも射程300キロ)を600発以上、日本を射程に入れるノドンミサイル(射程1300キロ)を200発以上保有し、そのノドンに小型核弾頭の搭載を目指してきました。
さらにテポドン1号(射程2600キロ)、同2号(射程3600〜6000キロ)、同2号改良型(09年4月に発射)を開発し、次には大陸弾道弾ミサイル(ICBM)発射実験を行うと見られていました。今回のミサイル発射はこの実験と見て間違いありません。09年5月の核実験では、北朝鮮は「共和国の自衛的核抑制力を強化するための措置の一環」(朝鮮中央通信=09年5月25日)としています。共産主義勢力は自国が政治、経済的に不利な立場にあるときは「後退期」(敵の攻勢期)と位置づけ、自らの体制護持に主眼を置いて軍事力増強(核武装化も)に走りますが、いったん経済発展を遂げ自国が有利な立場に立てば「攻勢期」と判断し、軍事力をもって覇権拡大に転じます。それが共産主義の不変の戦略です。ですから北朝鮮の「核抑制力」は情勢が攻勢期と判断すれば、たちどころに韓国赤化、日本壊滅に使用されることになるのです。このことを日本国民は肝に銘じておかねばなりません。

ミサイル防衛(MD)を拡充し日本を守るべき

国際世論がいくらミサイル発射を止めよと叫んでも、北朝鮮にとっては犬の遠吠えとしか聞こえないでしょう。したがって私たちは日米同盟を強固にし、ミサイル防衛力を強化して不測の事態に備えねばならないのです。
わが国は98年8月の北朝鮮のミサイル発射以降、ミサイル防衛(MD)の整備を進め、04年から海上自衛隊に迎撃ミサイル(SM3)を搭載したイージス艦航空自衛隊に陸上配備した地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を実戦配備し、2段構えの防衛態勢をとってきました。米軍の早期警戒衛星が発射情報を探知すれば、同情報を米軍と共有し、イージス艦からSM3を発射して大気圏外で迎撃し、撃ち漏らした場合、PAC3が着弾する前に迎撃するという仕組みです。防衛省は今回、イージス艦を沖縄周辺の東シナ海とその近海に2隻、日本海に1隻配備し、石垣島宮古島沖縄本島にPAC3を配備、さらに軌道が外れた場合に備え東京・市ヶ谷駐屯地にもPAC3を展開するとしています。
これは当然の対応でしょう。石垣市など先島諸島の市町村は「生命と財産、暮らしを守る観点から万が一、北朝鮮弾道ミサイル八重山周辺に着弾や落下する最悪の事態に備え、万全の対処が強く望まれている」(与那国町議会・全会一致で決議採択=3月23日)としています。しかし、現状のMDではとても全土を守れません。イージス艦も足りませんし、PAC3を常時配備しカバーしているのは首都圏などに限られているからです。沖縄には14年度からPAC3を第5高射郡(本部・那覇市)に配備する予定ですが、今回は間に合わないので、岐阜県各務原市航空自衛隊岐阜基地から陸路で広島県呉市に運び、民間フェリーなどで沖縄に運ぶことになっています。何とも悠長な対応で、これでは有事ではまったく役立たないでしょう。
日本全土をカバーするミサイル防衛網を構築するために、イージス艦とPAC3を充実させ、重層に配備していくべきです。


集団的自衛権を行使し日米同盟を強固にせよ

ミサイル防衛を磐石にするには、集団的自衛権行使を認めることが必要です。ミサイル発射情報は米軍から提供され、日米一体でミサイル防衛に当たることになっているにもかかわらず、現行の政府の憲法解釈では自衛隊が迎撃できるのは日本向けだけとしています。米国向けを迎撃すれば、集団的自衛権行使に該当し、憲法違反だというのです。馬鹿げた解釈です。集団的自衛権行使は国際法国連憲章条約)が認める国家が保有する当たり前の自衛権のひとつです。政府解釈を直ちに改めるべきです。
おりしも、領空侵犯や弾道ミサイルに対処する航空自衛隊の作戦中枢である航空総隊司令部が3月26日、東京都府中市から米軍横田基地(東京都)に移転し運用を開始しました。米第5空軍司令部に隣接させた総隊司令部庁舎に、空自と米軍による「共同統合運用調整所」を新設し、司令部間の情報共有と連携を強化するのです。早速、4月の北朝鮮のミサイル発射で横田移転における日米の連携強化が試されることになります。集団的自衛権行使を認めなければ、こうした日米同盟強化策も空しく、日米同盟は破綻するでしょう。


●早期警戒衛星(軍事衛星)を整備し独自情報を得よ

もとより米国依存だけの体制では自国が守れません。日本独自に北朝鮮(むろん中国も)の軍事情報を収集する能力を保持しておくべきです。そのためにわが国は情報収集衛星を整備していますが、不十分です。情報収集衛星は98年8月に北朝鮮が「テポドン1号」ミサイルを発射し、日本列島を越えて三陸沖に落下させたことを受け、ミサイル情報を日本独自でつかむために保有することにしたものです。米軍から必要な情報がもたらされず、米軍情報に依存するだけでは、わが国の守りに齟齬をきたすと判断したからです。
それで光学衛星2機とレーダー衛星2機の4機体制で北朝鮮のミサイル基地を監視することにし、03年3月に鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケットで最初の情報収集衛星「光学1号」(光学衛星)が打ち上げました。光学衛星は光学センサーによって晴れた昼間に高精度で撮影し、レーダー衛星は悪天候と夜間に物体を電波で捉えて撮影します。あらゆる地域を1日1回監視するには各2機の4機体制が不可欠で、当初計画では2011年度に4機体制を整備するとしていました。しかし、計画どおりに進んでいません。10年11月に「光学3号」が打ち上げられましたが、これは1号の代替衛星です。3号は高性能の望遠デジタルカメラを搭載しており、解像度は従来の1メートル四方から最新商業用レベルの約60センチ四方にまで向上したといいます。また10年9月、「光学4号」が打ち上げられましたが、これは2号機の代替です。現在、光学衛星2機とレーダー衛星1機の3機体制で運用されていますが、レーダー衛星は故障中とされます。12年度中に4機体制にする計画ですが、遅々として進みません。
情報収集衛星の能力が不十分です。3、4号機の投入で偵察の精度が高まったとされますが、同機は米国の最新商業レベル(40センチ)に比べても性能が劣っています。米国の軍事偵察衛星は数センチの解像能力を有しており、日本の性能レベルは技術大国としては恥ずかしい限りです。これは戦後の平和ボケの所産です。1969年に宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)が設置された際、宇宙開発を「平和目的の利用に限る」という国会決議が採択され、それ以降、宇宙の軍事利用は禁じられたと解釈され、防衛目的の宇宙利用すらタブー視されてきたからです。ようやく08年に宇宙基本法が制定され、防衛目的での宇宙利用が解禁されました。それでも情報衛星は「専守防衛」に反するといった議論が起こされ、それで政府の腰が引けているのです。
そもそも4機体制ではミサイル発射に対応できません。北朝鮮のミサイル燃料注入は約2時間とされ、その時、上空に衛星がいなければ見逃してしまうからです。24時間監視体制には16〜20機程度必要で、また現行の衛星では発射準備を探知できても発射は探知できません。探知を可能にするには早期警戒用衛星(軍事衛星)が必要です。電子戦が重要度を増しているだけに、高解像度の軍事衛星の運用など積極的に乗り出すべきときです。

●敵基地攻撃能力を保持する「積極的防衛」策に転じよ

ミサイル発射情報をつかめば、どう対応するのかが問われます。安全保障の原点に立ち返えれば、ミサイル発射の情報を収集するのはそれに対処して国民の生命と財産を守るためですから、情報だけでは何の意味もありません。ミサイル防衛(MD)体制を整備しておくべきですが、MDをいくら整備しても全土をカバーするのは無理です。防衛に最も有効なのはミサイル発射の前に発射基地を叩くことです。こうした敵基地攻撃は国際社会では侵略とは解されず「積極的防衛戦略」と呼ばれ、自衛権行使の常套とされています。ですから、専守防衛策を放棄し「積極的防衛戦略」に転じ、自衛隊に敵基地攻撃能力を持たせてこそ、情報収集衛星が生きてきます。
かつて政府は「侵害の手段としてわが国に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つというのが憲法の趣旨ではない。誘導弾などの基地を攻撃することは法理的には自衛の範囲内であり、可能である」(1956年2月、鳩山一郎首相答弁)としていました。当時、朝鮮戦争を経て、東西冷戦の真っ只中にあり、岸信介内閣もこれを踏襲しました(59年3月、伊能繁次郎防衛長官答弁)。しかし、野党から執拗に追及され、84年の防衛白書では「他国の国土の壊滅的破壊に用いられる兵器(例えばICBMや長距離爆撃機)は保持できない」と変えてしまいました。
03年に国会で武力攻撃事態法など有事関連3法が審議された際に専守防衛と敵基地攻撃の整合性が問われましたが、小泉純一郎首相(当時)は「はっきりと侵略の意図がある、組織的、計画的意図がある。それをまず日本国民が被害を受けるまで、それがわかっていながら何もしないわけにはいかぬだろう」(03年5月、参院特別委答弁)と、敵が侵略しようとすれば敵基地攻撃もあり得るとの考えを示しました。
さらに06年に北朝鮮がミサイル発射した際、北朝鮮が日本に向けてミサイル発射を準備している場合、手をこまねいていいのか、被害を受けてから敵基地を叩くのでは遅すぎるのではないか、との疑問が呈されました。政府は「(敵国が)日本への急迫不正の侵害に『着手』した時点で武力行使とみなす」とし、「着手」の時期については「ミサイルを撃つぞと宣言し、燃料を注入し、照準を合わせる行為があったとき」(当時の石破茂防衛庁長官)としています。しかし、燃料を注入し、照準を合わせる行為を判断するのは至難の技で、仮に自衛隊が敵基地攻撃能力を保持したとしても、時の政権が「着手」と判断することを躊躇する可能性があります。それで結局、「敵による第一撃は仕方ない」と考えている政府関係者も少なくないといいます。これは大問題です。第一撃が核弾道付きミサイルであった場合、「何万人も死んでしまう」(石破氏)ことになるからです。


●世界の笑いもの「専守防衛」を放棄せよ

専守防衛は世界の笑いものです。これを金科玉条とせず、国際社会では侵略と解されず防衛の範疇に入れている「積極的防衛戦略」を採用することを宣言し、敵基地攻撃能力を保持すべきです。それが国民の生命と財産を守る国家としての当然の責務です。
 以上、北朝鮮のミサイル発射予告を政策転換のチャンスにしなければなりません。



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