秘密保護の服務規則では限界に,スパイ罪を設けることが最重要!

現在、特定秘密保護法案が論議されていますが、
これまでわが国の機密保護に関連する法律としては、

日米相互防衛援助協定(MSA協定)に伴う機密保護法
日米安保条約地位協定に伴う刑事特別法(第6条)
自衛隊法(第59条)
国家公務員法(第100条)
地方公務員法(第34条)などがあります。

①②は在日米軍に関するもの(最高刑は懲役10年)、
③④⑤は公務員が職務上知りえた秘密を守る義務を定めたものです。

2007年に米軍事機密の第3国への漏洩を防ぐ包括的な枠組み「日米軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)が締結され、電子情報なども含め米国と同様の秘密保全措置が義務付けられましたが、協定は政府間のものであって、罰則規定がなく米軍情報の保護だけで日本の情報は無関係なのです。

今年6月、安倍首相は訪英した際、キャメロン首相との間で軍事機密などの秘密情報の保護協定の締結で合意しました。情報保護協定は米国、オーストラリア、フランス、北大西洋条約機構NATO)と締結しており、英国が5件目です。これによって日英間で軍事に絡む機密情報をやり取りする際、厳重管理を互いに求め、テロ対策の情報交換や防衛装備品の共同開発・生産を進めやすくします。

しかし、こうした協定を裏付ける国内法は脆弱です。国家公務員法自衛隊法において公務員や自衛官守秘義務を規定し、これに反して秘密を漏らせば処罰されますが、これらはあくまでも「服務規律」であって、秘密の保護を目的としたものではないので、漏洩した秘密の内容、程度が問われません。それで違反者には最高刑が国家公務員法では「1年以下の懲役又は3万円以下の罰金」にすぎないのです。

自衛隊法では「防衛機密」を規定し(96条2)、自衛官に「秘密を守る義務」を課し(59条)、漏洩したものには国家公務違法と同様に「1年以下の懲役又は3万円以下の罰金」に処します(118条)。つまり、現行法では漏洩した(それを外国に流しても)秘密が日本の安全保障に重要な関わりがあっても、最高刑は万引きやコソ泥なみの微罪にすぎないのです。2001年に自衛隊法が改正され「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者、していた者が漏洩」した場合、「5年以下の懲役」に処することになりました(122条)。

日米相互防衛援助協定(MSA協定)に伴う機密保護法は、米国の基準に照らして最高刑を10年としており、今回の特定秘密保護法も米国からの情報提供を想定し、最高刑を懲役10年としています。

しかし、いずれも一般の民間人(を装っている外国スパイ)がどんなに重大なスパイ行為を犯しても、「スパイ罪」として罰することはできません。

むろん、スパイ行為に付随する行為、例えば電波法や出入国管理及び難民認定法、旅券法、あるいは窃盗や建造物(住居)侵入などの違反で取り締まれますが、スパイ行為そのものでは摘発できないのです。しかも、これら罰則は前述のように微罪でしかありません。

最も重要なことは「スパイ罪」を設けることです。それは近代刑法の基本原則である罪刑法定主義に則るためです。あらかじめ犯罪の構成要件、刑罰を定めておかねば、いかなる行為も取り締まることができないのが、民主主義の常識、罪刑法定主義です。
ですから、「スパイ行為」がいかなる行為なのか、その犯罪の構成要件を明確にし、スパイ行為を「犯罪」とする法律を作っておかねばなりません。それがない限り、スパイ行為は犯罪ではないということになります。逆に言えば、日本ではスパイ活動は自由、言いかえれば“合法”ということになってしまうのです。それで「スパイ天国」となってきたのです。

ですから「スパイ行為」を取り締まる法律が不可欠です。1980年代に自民党が国会に提出したスパイ防止法案(防衛機密に係わるスパイ行為等の防止に関する法律案=87年)では、第1条で「この法律は、防衛秘密の保護に関する措置を定めるとともに、外国に通報する目的をもって防衛秘密を探知し、若しくは収集し、又は防衛秘密を外国に通報する行為等を処罰することにより、我が国の安全に資することを目的とする」としていました。すなわちスパイ行為とは「外国に通報する目的をもって」防衛機密を探知、収集などを行なう行為と規定しました。
同法をめぐって「スパイ行為」の定義規定が曖昧だとする批判もありますが、他国の例をみると、ほとんどの国が規定しておらず、英国の国家機密法第1条にはいきなりタイトルに「スパイ」とあります。この種の法律で「スパイ」の定義規定をもっているのはスウェーデン1国だけです(刑法典第19章第5条)。自民党案はこれを踏襲したもので、第1条の規定とほとんど同じです。「秘密保護」だけでなく、「スパイ罪」を設けて防止しなければ国の安全は守れないのです。